オオハシオニコです。
予防シーズン到来で、久しぶりに来院される動物が多い季節になってきました。
先日いらしたボストンテリアちゃん、11歳。
なんだかずいぶんやせた?と思い体重を測ってみると、この一年で3キロ近く減っています。
もともと少しぽっちゃりくらいだったので、いまはあばらが見えるほど。あきらかにやせすぎです。
「まさか癌!」
と考える人もいるかもしれませんが、それはやや早すぎます。
「じゃあ血液検査!」
それも早すぎます。
まずは問診、です。
お話してみると、この1年で歯周病がひどくなり食べづらそうにしているので、ドライフードをやめて缶詰ウェットフードにしたそうです。
喜んで食べて毎回完食するのに、どんどんやせていくので心配していると、以前他の病院で治療してもらった腸の病気ではないかとお友達が言われ、勧めてくれたなるべくタンパク質のたくさん入った肉の量の多い缶詰を選んでいるそうです。
今ペットフードはあまりにもたくさん種類や量が増えています。
その中で、そのフードの栄養を正しく評価しないと、ちゃんとあげているつもりで足りていない、もしくは過剰になってしまっている可能性があります。
その正しく評価する一つの方法が、フードから水分を取り除いた状態(乾物)での分析値に換算して比較する方法です。
この方法で求められた値を乾物量(分析値)といい、栄養学の論文や教科書では栄養価の多くをDM(乾物量)で表記しています。
DM(乾物量)ってなに?
DM(乾物量)=栄養成分÷(100-水分)×100 で求められます。
この下のbox部分はちょっと難しいので、興味のある人だけどうぞ。
よく使われるのは、産業動物の飼料です。例えば乳牛。
干し草、発酵牧草(サイレージ)、ビートパルプ、配合飼料(ドライフード)など様々なエサが乳牛に与えられています。
そしてこれらのそれぞれのエサに含まれる水分は、飼料によって異なります。
そこで乾物量で統一することで、エサ(飼料)に含まれる水分を除いたもの=乾物 (タ
ンパク質、繊維質、デンプン、脂肪など)量を検討しやすくし、飼料設計しやすくするのです。
日本飼養標準 ・乳牛 (1999年度版)では、泌乳牛(牛乳を生産する乳牛)の乾物摂取量 (DMI)は数式化されています。
乾物摂取量(DMI)=2.98120 + 0.00905 X 体 重 + 0.41055 X 4% 脂肪補正乳量
※注
※注 :4%脂 肪補正乳量 (FCM)= ( 15× 乳脂肪 (%) ÷ 100 + 0.4 ) × 乳量
例えば、体重650kg、乳脂肪3.7%、乳量35kgの牛では
4% 脂肪補正乳量 (FCM) = (15 X 3.7 ÷ 100 + 0.4) X 35 =33.4
乾物摂取量 (DMI) =2.98120 + 0.00905 × 650 + 0.41055 × 33.4
のようなことになるわけです。
つまり、これくらいの体格の乳牛には、乾物でこれくらいの栄養を取らせないといけないけど、ドライフードやらウェットフードやら、干し草やらいろいろ食べていると計算するのが大変だから、全部同じ条件(乾物)にするとであれこれ組み合わることがやりやすい、それがDM(乾物量)です。
DM(乾物量)ってどんな風に便利なの?
例えば、牛の場合牧草の漬物みたいな「サイレージ」というものをよく食べます。
これは牧場で作ることが多いのですが、その保管状態や作った時期などによって、含まれる水分が変わってきてしまうことがあります。
ビートパルプ(ドライフード):2.5g
配合飼料(ドライフード):9.0kg
だったとします。
ビートパルプと配合飼料は水分10%以下のドライフードなのであまり大きく変化はしないのですが、サイレージの水分が70%から75%に、5%増えたとします。
すると、70%のDM 12kg → 75%のDM 10kg と2kgの違いがあるのです。
いくら牛が大きいとはいっても、ずっとその量を食べ続けていれば、乳量は減ってしまいますし、体重もやせてきてしまいます。
同じごはんを与え続けているのになんだか牛の調子が悪いなあというときは、このようにごはんの水分量をDMを利用して見直すことができます。
DM(乾物量)ってどうやって使うの?
食べても食べてもやせていくボストンテリアちゃんの場合、歯が悪くなったので飼い主さんはドライフードから柔らかいウェットフードにされました。
そして昔病気をしたためできるだけタンパク質をとらせたいと思い、できるだけ肉が多く含まれているフードを選ばれたのです。
こういうときに、カロリーや重量だけでなく、DMを使うという方法もあります。
例として、当院でも人気のドッグフード、ヒルズのi/dで比較してみます。
i/dはお腹の弱い動物向けの処方食です。犬が何かしらの消化管のトラブルがあると下痢や吐き気、便の量が多いなど、家族みんながつかれてしまいます。
消化性が高く、食物繊維を調整し、消化管の健康に役立つ栄養組成のフードを与えることで、そういった問題をケアすることが目的になっています。
まずは定番のドライ製品
原材料名:トウモロコシ、米、全卵、トリ肉(チキン、ターキー)、トリ肉エキス、コーングルテン、ビートパルプ、動物性油脂、ポークエキス、植物性油脂、亜麻仁、サイリウム、ミネラル類(カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、クロライド、銅、鉄、マンガン、セレン、亜鉛、ヨウ素)、乳酸、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、アミノ酸類(タウリン、トリプトファン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物)
成分 乾物量分析値(%)
たんぱく質 25.2、脂質 14.6、粗繊維 1.4、炭水化物 51.8
次に水分たっぷりの缶詰ウェット製品
原材料名:ターキー、ポーク、米、ライススターチ、トウモロコシ、全卵、チキン、チキンエキス、ビートパルプ、セルロース、亜麻仁、サイリウム、ミネラル類(カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、クロライド、銅、鉄、マンガン、亜鉛、ヨウ素)、カラメル色素、ビタミン類(B1、B2、B6、B12、C、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、アミノ酸類(スレオニン、タウリン、トリプトファン、リジン)
成分 乾物量分析値(%)
たんぱく質 25.3、脂質 14.6、粗繊維 2.4、炭水化物 51.4
ドライ製品はトウモロコシ → 米 → 全卵 → トリ肉の順に入っていて
ウェット製品はターキー → ポーク → 米 → ライススターチ → トウモロコシ → 全卵 → チキン
ですが、栄養成分に差はほとんどありませんね。
これは、原材料名は日本の公正競争規約で重量の割合の大きいものから記載することになっているためです。
ボストンちゃんの飼い主さんはそのため、できるだけたくさんの肉が入っているもの、先頭に動物性タンパク質が書いているのがよいフードと考えられていたのです。
しかし、肉の半分は水分です。
そして多くの穀類はあまり水分を含まないドライの状態です。
そのため、原材料名の表示順と、フードの栄養成分の割合や質が一致しないことがあるのです。
また犬はもともと狼だからと肉食にこだわる飼い主さんもいらっしゃしますが、むしろ肉のみのフード与えられる犬の腸内細菌は活性が悪いという報告や、IBDの慢性下痢の治療でも肉だけでは治療にならないという事実があります。
ペットフードの品質は、製品全体のバランスが重要であって、ひとつひとつの原材料の表示順や内容というのは、意図すれば操作できてしまうようなものなのです。
栄養基準にはDM(乾物量)ベースと、カロリーベースとがあるみたい?
はい、おっしゃる通りです。
日本やアメリカのペットフードはAAFCO(アメリカ飼料検査官協会)の基準に従って作られています。
そのため、その目的によって、使いやすいDMベースとカロリーベース、どちらも使えるように二つの基準表が存在しています。
使いやすい方でいいよ!ということですが、いやいや細かいことが気になるのでもっと詳しく!!というかたはこちらの論文をご参考にされるとよろしいですよ(日本語です、読むだけなら無料です)。
手作りごはんを作るときにDM(乾物量)は必要?
いいえ!
必要ありません。
手作りごはんの基本は
「バランスよく食べる」
「やせたら増やす、増えたら減らす」
ですので、飼料計算が必要にはなりません。
フードを決める基準はいろいろあります。
ボストンちゃんは、おそらく依然食べていたドライフードがかなりカロリー密度が高いごはんまたは高消化性のごはんだったので、ウェットフードは多く与えているつもりで、量が足りていなかった可能性があります。
その可能性をお話したうえで健康診断を行ったところ、内臓機能やホルモン値に異常はなく、また癌所見も見当たらなかったため食事指導とデンタルケアのみ行うことになりました。
カロリーとか難しくてよくわからない・・・というかたは、いつものごはんの栄養成分表示のところを写メして、通院のついでに動物病院のスタッフにきいてみてください。そこで買ったものでなくても、ちゃんと適正量をおしえてくれるはずですよ(たぶん)。
本日は以上です。