台風19号がまだ日本列島に被害を出し続けています。被災された方々、またそのご家族や関係者・・・そしてペットたち、に心よりお見舞い申し上げます。
さて、台風と言えば低気圧。急速に発達するためその気圧の変化の影響を受け、神経痛やてんかん発作または興奮作用などが動物にも現れることがあること知られています〈その話はいずれくわしく)。
本日初めて来院された高齢の柴ちゃんの飼い主さんから
と相談を受けました。
高齢のワンちゃんが、加齢による痴呆症状を発症し、その一つとして昼夜逆転や夜鳴きがあらわれ、家族はもちろん近所迷惑になるからと言ってお困りの方はよくいらっしゃいます。
原因は様々で、解決できるものもあり解決できないものもあります。
物理的に解決できるもの。
例えば室内の明るさ、気温、湿度、その子のいる場所の快適さ、またその子自身の体調など、原因と思われるものを一つ一つ潰していき出来る限り快適な状態をまずは作り上げます。
それでもなお眠れない、もしくは興奮状態が続いてしまう場合は、それは本人の健康にも悪影響が出るので睡眠改善薬やサプリメントを処方することがあります。
けっしてこの順番を逆にしてはいけません。
本日の飼い主さんは非常に研究熱心な方で、ご自身でいろいろと調べてすでにサプリメントを購入し実際に与えているようです(今までかかっていた病院の薬は効かなかったそうです)。
私の知っている限り、テアニンは集中力を高める一方で緊張感を和らげる欧米のビジネスマンに大人気サプリメント!ということだけだったので、実際にテアミンでよく眠れるのか興味はありましたのでいくつか論文を調べてみました(テアニンはアミノ酸の一種なのでおそらくは生体内で健康に害を与える可能性は低いと考えられます)。
テアニンと睡眠に関する論文を調べてみました
まず最初に結論です。
結論から言うと、テアミンを飲むと高齢のワンちゃんが以前のように静かに寝てくれるということは、恐らくないと思われます。
誤解のないように言っておくと、テアニンが睡眠に役に立たないと言っているわけではありません。しかしテアニン単独で飲ませたところでワンちゃんがよく眠るということはおそらくなさそうです。
理由は以下の通りです。
テアニンは睡眠の質を改善する
睡眠の質とは何でしょう?
こちらの論文によると、睡眠中の夢の内容や眠りの浅さ、活動量などを統計して睡眠の質を測るようです。
テアニンを飲むとあまり夢を見ず、見ても悪夢は少なくなるようです。
またうとうととした浅い眠りも少なくなり、朝までしっかりと眠ることができるというデータが出ています。
高齢になったためもしくは睡眠障害がある方は、いわゆるショートスリーパーとなりすぐ目が覚めてしまう、寝ても疲れが取れないなどの障害を抱えることが多いです。そういった眠りの浅い人にとってはテアニンはその睡眠の質を良いものに変えてくれるので有効です。
テアニンを飲んでも眠くはならない
論文にもあるようにテアニンは脳のアルファー波を増やしリラックス効果を高めます。
リラックスすることで身体の末梢血管が開き、手足がポカポカするため冷えを改善し気持ちよく心地よい状態を作ることができます。
しかし眠気を感じることはないと、はっきりと論文に記載されていることからリラックスはするもののそれが眠気に繋がるような、眠気を誘導するような作用は確認されていないようです。
テアニンは睡眠導入薬と組み合わせると良い
テアニンは一度眠り始めると、その睡眠の質を高めまたリラックス効果があるため寝だめが非常に爽快になると考えられます。
つまり眠ることはできるけれどもすぐ起きてしまうような人や、寝ても疲れが取れづらい人には単独で飲んで大きな効果が得られると思われます。
しかしそもそも眠ることが難しい、睡眠のサイクルがおかしくなってしまっているような方に対しては睡眠導入薬やメラトニンなどのホルモン分泌を整えるお薬やサプリを一緒にとるとその効果が最大限に発揮できる可能性があります。
世の中に出ている論文としてはマウスを使った実験室レベルものと、ヒトで行った小規模研究しか見当たらなかったので、実際何十頭もの犬や猫にテアニンを与えてその質をはかる研究はいずれでるかもしれませんが、今言えることは以上のことです。
本日ご相談があった柴ちゃんは
- 悪天候によりいつもの散歩に行けない日が続いた
- 家の中でも起床やごはんの時間のリズムが狂ってしまった
- 台風対策で家を締め切ったため、部屋がやや蒸し暑くなっていた
などの理由が重なり夜泣きが悪化したと考えられました。
まずはいつものリズムに戻し、不快の原因を取り除いてから、テアニンを含め内服の常用を検討してみてはいかがでしょう(一時的には興奮を抑える薬も使用)とお話ししたところ、
と非常に愛にあふれた心強いお言葉でした。
ペットが夜鳴きをすると
「耐えられないすぐに寝かせてください」
とご相談をされる方がいらっしゃいます。
しかしある日突然なるわけではありません、そこに至るまでは何かのサインが必ずあるはずです。
だんだんと夜鳴きの時間や声の大きさがひどくなり、ついには耐えられなくなってからご相談に来られると
「改善なんて言っている余裕はない、今すぐ止めてほしい」
という状態に陥っています。そういう強いお薬を使わざるを得ない状況は、動きたくても動けないまたは寝ぼけている状態でかえって混乱して騒いでしまうなど痴呆が一気に進行してしまうという悪循環に陥っていることもあります。
」
と病名がつかないことだと相談することを迷われる飼い主さんが意外といらっしゃいますが、せっかく長生きしている愛する家族のために是非お近くの動物病院へご相談されてはいかがでしょうか。ネットを彷徨うより、お散歩仲間に愚痴るよりいい結果が得られるかもしれません。
本日は以上です。