すっかり秋の風を感じるようになりました獣医師のオオハシオニコです。
ここ最近、歯や口臭の話題をずっと続けておりますが、普通の獣医師としていつも飼い主さんに言っていることがあります。
それは麻酔をかけないスケーリング、いわゆる無麻酔歯石とりについてです。
歯のお手入れやデンタルケアなどいざやってみようとすると、実はもう歯には歯石がびっしりついてしまっている!ということが実際よくあります。
そんな時、「麻酔をかけずに安全に綺麗に歯石をとってぴかぴかになります☆」と言われたら・・・それはもちろん皆さん行ってみたくなるのは当たり前です。
しかしこの、麻酔をかけずに安全に歯石が取れるというのは本当のことでしょうか?
残念ながら今までそうではない事例にたくさん私は出会ってしまっています。
事例その1 骨折
ペットショップで麻酔をかけずに歯石を取ろうとしたところ、怖がった犬が処置台から飛び降りてしまって骨折→当院で手術
事例その2 舌を損傷
トリミングサロンで麻酔をかけずに歯石を取っている途中で嫌がった犬が暴れてしまい、舌を傷つけてしまった→当院で縫合
事例その3 歯根破折
他院で歯石を取ろうとして力を入れたところ、歯が根元から割れてしまった→当院で抜歯
事例その4 神経痛
他院で長時間に渡り顎を押さえつけて歯石を取り続けた結果、顎を痛めてしまい重度の顎関節の痛み→当院で治療中ですが、MRI検査をしたり鎮痛剤や漢方を使ったりで残念ながらまだ治っていない状況です
犬や猫も自分に歯石がついているからといってどうにもすることができません。またそれをとることがいいことだと理解することもできません。
そんな状態で、知らないところで無理に抑えられ、痛いことを口の敏感な部分に繰り返し行われれば、どんな犬や猫でも抵抗したくなるのは当然です。
そこで途中で休み休みを行ってくれればいいのですが、大抵はその目的を達成するために時には力で抑えて継続されます。
その結果事故が起きてしまったり、仮に無事に終わったとしてもそのワンちゃんやネコちゃんは歯磨き歯石とりというものが大嫌いになってしまうのです。
確かに全身麻酔をかけるのは心配かもしれません。しかし口の中をきれいにするにはどうしてもたくさんの水分が必要です(ヒトの歯医者さんでも吸引器できちんと吸ってくれないと大変なことになりますよね)。口の中に水をジャバジャバ入れ続ければ気管に入ってしまう可能性が大いにあります。しかし麻酔を避けて鎮静がかかっていると呼吸の状態が抑えられるため変なところに入ってしまってい、しかし気管挿管していないので呼吸状態が非常に悪くなってしまうことが考えられます。
そういった事故を防ぐため、また恐怖でペットがパニックになったり二度と歯みがきをやらせてくれなくなるリスクを考えると、全身麻酔をかけて短時間で安全に終わらせるというのはメリットが大きいように思います。
とはいうものの、もちろん私も無麻酔でのデンタルケアを行うことはあります。
しかしそれは一瞬で終わるような、一部に場所が限定されているものだけで、口の中全体を行うあいだペットにそれを我慢させるのは動物の負担が多すぎると思います。
よくかかりつけの動物病院やサロンと相談し、ペットの歯の健康を守ってあげてくださいね。
食べることで歯石除去が期待できるごはんもあります。
びっくりするほど粒が大きいので、できればおやつにあげることをおすすめします。
本日は以上です